たまには勉強の話をしましょう。ちあきなおみの「X+Y」の文字を見ていると、高校数学の不等式「相加平均≧相乗平均」を思い出します。
こいつは時として物凄い威力を発揮します。条件さえ揃えば、この式を使うと面倒な計算を回避し瞬時に答えが出せることがあります(1)。うまく使いこなせれば必殺技になりうる、しかしそれに気付けるかどうかが難しい。「コーシー・シュワルツの不等式」も似た性格を持ちます(2)。
医学・生物学と違い、学問としての数学は厳密で一貫した論理があって、じっくり考える楽しみや普遍の法則に気付く感動があります。しかし、受験数学となると学問だけでなくギャンブル的要素を帯びるのです。受験数学は時間内に点数をとることが目的の勝負とも言えます。捨て問を判断したり、部分点を拾ったりと、数学の本質と違うところで戦略が必要です。ひとたび計算地獄に陥れば疑心暗鬼に襲われます。「もしかしたらこの解法は間違いではないか?」自分を信じて計算を進めるか、撤退して解きなおすかギリギリの判断を迫られる、メンタル面の強さも必要です。日々計算と問題演習に明け暮れるのは、その恐れに打ち克ち己を信じられるようにならんがためです。また他科に比べ1問の配点が大きいのもギャンブル性を高めます(3)。英語やセンター試験で細かく点を集めても数学1題を落とすと全てがパー。数学1題の解答用紙はA4~B4のだだっ広い白紙、見た目からして配点が高そうです。受験生はたった一枚の答案用紙に人生を懸けています。その辺、バカラやポーカーで一枚のカードに賭けるギャンブラー或いは一枚のツモ牌に賭ける雀士に通ずるものがあります。白い解答用紙はさながら緑の羅紗です(4)。試験場で、相加相乗やコーシー・シュワルツのような大技が使えることに気付きエレガントな解答を書けると、ロイヤルストレートフラッシュか大三元が来たかのような陶酔を感じるわけです。
これが大学で学ぶ学問数学との違いであり、そして受験数学の面白いところです。受験数学を経験した人以外にあの雰囲気を伝えるのは難しいかもしれません。
受験生の皆様、二次試験まであと少しです。頑張ってください。あなたの頭上に数学の神様が降りてきますように! (院長)
(1)東京大 昭和49年 文・理科第2問、同平成24年 文科第2問
(2)東京大 平成7年 文・理科第1問、大阪大 平成27年 文系第1問、理系第2問、
(3)制限150分で5-6題しか出ません。1題の配点は100点換算で17-20点、東大と京大は6問、阪大は5問でした。阪大は1問あたりの比率が多く、1つ間違えると他科目で取り返せない、1つ余分に解けると大きなアドバンテージ、とギャンブル性が高いです。
(4)カジノテーブルや雀卓は緑の羅紗の布が張られています。
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